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『朝課(ちょうか)』

暁天坐禅が終わると今度は法堂の鐘、「殿(でん)鐘(しょう)」が緩やかに鳴り響きます。

これは、「これから法堂に於いて『朝(ちょう)課(か)諷(ふ)経(ぎん)』、朝のお勤めが行われます。」ということを山内に知らせる鐘です。殿鐘は三会(さんえ)(三遍)打ち鳴らされ、一会中に法要を司る知(ち)殿(でん)寮(りょう)員は、法堂内の本尊様をはじめ各所に灯を点じ朝課の準備を致します。法堂内の準備が整うと、一会が打ち上げられ、これを聞いて修行僧は僧堂(坐禅堂)から法堂へと向かいます。

二会中に修行僧は法堂へと上殿し、皆が所定の位置に就くと二会が打ち切られ、お勤めの導師(住持)の準備が整うと三会も打ち切られます。
導師は侍者・侍香(お側付き)を引き連れ上殿し、朝課が始まります。導師は本尊様の前へと進みお香を供え、一同に三度の礼拝をし、導師を真ん中に山内の僧侶は東西に分かれて内面して座り読経が始まります。

長谷寺の法堂での朝課は六つの諷経から成り立っています。
まず一つ目が『仏(ぶつ)殿(でん)諷(ふ)経(ぎん)』です。読誦されるお経は「妙(みょう)法(ほう)蓮(れん)華(げ)経(きょう)観(かん)世(ぜ)音(おん)菩(ぼ)薩(さつ)普(ふ)門(もん)品(ぼん)」で、一仏両祖である釈迦牟尼仏、高祖承(じょう)陽(よう)大師(道元禅師)、太祖常(じょう)済(さい)大師(瑩山禅師)、そして、護法の諸天善神に回向します。

二つ目は『応(おう)供(ぐ)諷(ふ)経(ぎん)』です。お経は「摩(ま)訶(か)般(はん)若(にゃ)波(は)羅(ら)蜜(みっ)多(た)心(しん)経(ぎょう)」を読誦し、仏法僧の三宝と、釈尊滅後、仏法護持に努められた一切の賢者に回向します。

三つ目は『祖(そ)堂(どう)諷(ふ)経(ぎん)』です。お経は「参(さん)同(どう)契(かい)」「宝(ほう)鏡(きょう)三(ざん)昧(まい)」を日替わりで読誦し、釈迦牟尼仏までの過去七仏以下、道元禅師様のお師匠様である如浄禅師様までの名をお唱えして礼拝し慈しみの恩に報います。

四つ目は『開(かい)山(さん)歴(れき)住(じゅう)諷(ふ)経(ぎん)』です。

大本山永平寺の別院でもある長谷寺では、永平寺の開山歴住、長谷寺の開山歴住に対して諷経します。お経は「大(だい)悲(ひ)心(しん)陀(だ)羅(ら)尼(に)」を読誦し、永平寺御開山の永平道元大和尚以下、歴代住職の名をお唱えし礼拝し、続いて長谷寺開山の門(もん)庵(なん)宗(そう)関(かん)大和尚以下、歴代住職の名をお唱えして礼拝しご恩に報います。

五つ目は『祠(し)堂(どう)諷(ふ)経(ぎん)』です。お経は「妙(みょう)法(ほう)蓮(れん)華(げ)経(きょう)如(にょ)来(らい)寿(じゅ)量(りょう)品(ほん)偈(げ)」を読誦し、長谷寺で修行途中に亡くなった僧侶や、長谷寺を開いた開基様、万国の戦死病没者、長谷寺と縁を結んだ檀信徒各家の先祖、長谷寺の僧侶の父母親戚など一切の御霊に回向します。
六つ目は『福(ふく)寿(じゅ)無(む)量(りょう)諷(ふ)経(ぎん)』です。お経は「消(しょう)災(さい)妙(みょう)吉(きち)祥(じょう)陀(だ)羅(ら)尼(に)」を読誦し、大本山永平寺と別院長谷寺の住職である禅師様の御法体の康寧、そして、長谷寺で修行中の修行僧の辦道増進を祈念します。以上の六つの諷経を長谷寺の朝課ではお勤めします。

法堂での朝課が終わると引き続いて、観音堂にて朝のお勤め『ご祈祷』が勤められます。ご祈祷は、仏法の興隆、国土や世界の平和、人々の安寧、そして、人々が願いをかなえる為に努力精進して行く上での無事安穏を観音様に願います。

まず初めに「摩訶般若波羅蜜多心経」を祈祷太鼓に合わせて唱え、その後、「大般若波羅蜜多経」六百巻を皆で「転(てん)読(どく)」します。転読とは「偈(げ)文(もん)(短いお唱え)」を唱えながら経本を左右、前後にパラパラと振ることです。一人ひとりに割り振られた経巻を一冊ずつ手に取り、目前に掲げて大声に「大般若波羅蜜多経第○○巻」と読み上げ転読し、転読が終わるとこれまた大声に「降(ごう)伏(ぶく)一(いっ)切(さい)大(だい)魔(ま)最(さい)勝(しょう)成(じょう)就(じゅ)」と唱え次の巻に移ります。これを繰り返し、全て転読し終わると、「妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈」を読誦し、次いで「随(ずい)願(がん)即(そく)得(とく)陀(だ)羅(ら)尼(に)」を唱え、最後に「南無大悲観世音」との聖号をお唱えします。

観音堂での朝課が終わると、庫院(くいん)(台所を始めとする実生活を担う場所)に場所を移し『韋(い)駄(だ)天(てん)諷(ふ)経(ぎん)』が勤められます。お経は、「摩訶般若波羅蜜多心経」、「消災妙吉祥陀羅尼」をお唱えし、庫院に祀られている寺院の伽藍や修行僧の守護神である、足の速いことで知られる「韋(い)駄(だ)尊(そん)天(てん)」、そして、僧の食物を監督保護してくれる「厨(ず)司(す)監(かん)齋(さい)使(し)者(しゃ)」、湯火を司る竈の守護神「主(しゅ)湯(とう)火(か)神(しん)明(めい)」に回向し、寺院、僧侶、檀信徒の安穏、特に火による災がないよう祈ります。

「韋駄天諷経」が終わると修行僧は各々の自寮(部署ごとに割り当てられた部屋)に帰り、『室(しつ)内(ない)看(かん)経(ぎん)』を勤めます。室内看経とは、自寮の浄所に掛けられた各々の修行僧の護り本尊である「龍(りゅう)天(てん)護(ご)法(ほう)大(だい)善(ぜん)神(じん)」と「白(はく)山(さん)妙(みょう)理(り)大(だい)権(ごん)現(げん)」の名の記された掛け軸の前で「懺(さん)悔(げ)文(もん)」「僧(そう)那(な)法(ほう)」「正(しょう)法(ぼう)眼(げん)蔵(ぞう)仏(ぶっ)祖(そ)」等を読誦し、そして、朝課の仏祖諷経ではお唱えしなかった天童如浄大和尚以下、道元禅師様から自身のお師匠様までの法系(師匠と弟子の系図)を読み上げ礼拝することです。毎朝、日々の仏行を反省し、仏法僧の三宝に帰依することを誓い、そして、自分に至るまでの代々の仏祖の慈しみの恩に報います。

室内看経を以て朝のお勤め「朝課」は終了です。

朝課は三百六十五日休むことなく毎朝勤められます。入門したての頃は所作もままならず、お経を諳んずることも出来なかった新参の修行僧も、毎日毎朝お勤めをすることで、月日が経つにつれ自ずと僧侶としての行儀作法が身に付いて参ります。読経は一心に仏のみ教えを口に出して唱える修行で、礼拝は仏に身心を投げ出しすべてをお任せする修行です。朝課は仏道を歩む者が、その生き方を再確認する大切な修行なのです。

長谷寺の朝課はどなたでもご参加頂けます。早朝のひと時、修行道場ならではの大人数での荘厳な読経を肌で感じてみてはいかがでしょうか。

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