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『開枕(かいちん)』

日々の行持~開(かい)枕(ちん)~

夜坐が終わり定鐘(じょうしょう)(開枕鐘)が打ち切られると(九時頃)、就寝時刻を知らせる開(かい)枕(ちん)鈴(れい)が山内を回ります。「開枕」とは枕を開くと書き、就寝することです。起床を告げる振鈴(しんれい)とは違い、「チリン、チリン…」と等間隔で鳴らしながら歩きます。この時間になると山内は消灯し山内衆は就寝支度をします。就寝場所は修行の根本道場(坐禅・食事・就寝をする場所)である僧堂です。

袈裟を外して僧堂に赴き、自分の単(たん)(床・牀、修行僧一人一人に与えられた一畳の空間)の前に就くと、僧堂中央に祀られている聖(しょう)僧(そう)様に向かって三拝(三度の礼拝)を致します。その後、上牀(じょうじょう)し(床・牀・単に上がる)、函(かん)櫃(き)(単に備え付けられた蓋付きの棚)の下段より寝具を出して、頭が聖僧様(内側)の方に向くように敷きます。直裰(じきとつ)を脱いで函櫃の上段に収め、着物姿(打眠衣)になり、聖僧様の方(枕の方)に向かい正座をして合掌し「就寝の偈」を黙誦します。「昏(こん)夜(や)寝(しん)息(そく) 当願(とうがん)衆生(しゅじょう) 休(ぐ)息(そく)諸(しょ)行(ぎょう) 心(しん)浄(じょう)無(む)穢(え)」(夜、就寝する時に願うことは、衆生があらゆる行いを止め、心が浄らかで穢れがありませんように)

唱え終わって横になりますが、寝る姿勢にも作法があります。お釈迦様が入滅(にゅうめつ)(お亡くなりになられた)された時のお姿である、頭(ず)北(ほく)(頭を北に向ける)、面(めん)西(さい)(顔を西に向ける)、右(う)胸(きょう)臥(が)(右脇を下にする)の姿勢で眠りに就くのです(僧堂で就寝する場合は、聖僧様に頭を向ける為、右胸臥のみ)。

この開枕をもって朝四時半の振鈴から始まり、殆ど切れ目なく続いた修行の一日がようやく終わります(厳密には寝ている間も修行であり修行に切れ目はない)。寝ることも修行と言われるように、きっちりと睡眠を摂って翌日の修行の活力にしなければなりません。坐禅や読経に支障が出ないよう、休むときにはしっかり休む、決して仏道修行は苦行(くぎょう)ではないのです。

振鈴から始まり長期にわたって「日々(にちにち)の行持(ぎょうじ)」を紹介して参りましたが、修行道場では特別な法要等がない限り、この生活が三百六十五日休みなく続きます。道元禅師様は、日常生活のすべてが仏(ぶっ)作(さ)仏(ぶつ)行(ぎょう)であると説かれました。坐禅や読経だけでなく、作(さ)務(む)(掃除)も、食事を作ることも頂くことも、洗面や入浴、排泄に睡眠などの日常的な行為にいたるまで、仏の行いでないものは何一つとしてないのです。一つ一つの行いを「自らを仏として現して行く」作法(さほう)に任せ行じ続けて行く、それが仏の行いを持(たも)つ「行持」と言うことであり、仏の御命を生きることなのです。

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