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『行鉢(ぎょうはつ)』 その一

修行道場での食事を「行(ぎょう)鉢(はつ)」と言い、読んで字の如く「鉢(応量器(おうりょうき)=食器)」を「行ずる」という大事な修行です。修行僧が行鉢に用いる器を「応量器」と言います。

お釈迦さまの時代から用いられている器で、托鉢の際に施者が食事を施して下さる量に応じて鉢に受けたことから「応量器」と言います。また、銘々の食量に応じて食事を頂く器であることと、食事を頂くに当たって自らの行いが仏の教えに適ったものであったかどうか、自らを省み量ると言った意味も含まれています。

道元禅師様は『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』一巻を著され食事作法について詳細に示されました。

「粥(しゅく)」とはお粥を頂く小食(しょうじき)(朝食)のことで、「飯」とはご飯を頂く中食(ちゅうじき)(昼食)のことです。

仏教教団の規則では一日一食(いちじき)で正午までに食事を終えなければならなかった(朝に軽いお粥を頂くことは許されていたらしい)ことに因み、現在の僧堂でも正式な行鉢はこの二食(にじき)だけで、夕食にあたる薬石(やくせき)は薬を服するが如くお凌ぎ程度に略式で頂きます。
つまり、「粥、飯に赴く法」とは「仏としての食事の頂き方」のお示しと言えるでしょう。

道元禅師様は『赴粥飯法』の冒頭において、「食(じき)が等(とう)ならば諸法(しょほう)も等(とう)なり」と『維摩経』から引用されています。

これは、道元禅師様が食事を単なる食欲を満たす行為とは観ず、大切な修行と捉えられ、食事を正しく頂くことが出来れば生活全般(諸法)も自ずと調ってくる、とお示しになっているのです。

行鉢は『赴粥飯法』に則り僧堂(修行の根本道場、中央に祀られた聖僧さまを囲むように修行僧一人ひとりに畳一畳が与えられ、坐禅、就寝、食事をする)にて坐禅を組み、一食につき四十分から一時間という時間をかけて厳粛に修行されます。

 
梆がなり対坐する               展鉢の偈を唱える

それでは具体的な内容に移ります。

前回申し上げた「僧食九拝(そうじききゅうはい)(典座寮にて調理された食事を、修行僧が坐禅する僧堂へ送り出す際に典座が行う九度の礼拝)」と共に雲版が打ち切られると、直ちに僧堂外堂に吊り下げられた魚の形をした鳴らし物「梆(ほう)(魚(ぎょ)鼓(く))」が打ち鳴らされます。

「梆(ほう)(魚(ぎょ)鼓(く))」は山内に食事の時間を告げる鳴らし物で、これを聞いて僧堂で面壁(めんぺき)(壁の方を向いて)をして坐禅していた者は一八〇度向きを変え内面します。

また、山内各所で任に当たっていた者は一旦手を止め僧堂へと赴きます。この間に、食事の給仕役である浄人(じょうにん)も僧堂外堂に食事を運び僧堂行鉢(そうどうぎょうはつ)の準備をします。

 
応量器を並べる                展鉢し終わったところ

僧堂内堂、外堂共に準備が整うと、行鉢の際、応量器を並べる牀(じょう)縁(えん)を浄人が拭き清め、拭き終えると梆は打ち切られます。続いて「大雷(だいらい)」と呼ばれる雷のような太鼓が堂内に轟く中、先ず僧堂中央に祀られる聖僧(しょうそう)さま(修行僧が理想とする僧のことで、僧形の文殊菩薩である場合が多い)にお膳を献じます。

聖僧さまへの献(けん)膳(ぜん)が終わると槌(つち)砧(ちん)(木槌)または戒尺(かいしゃく)(拍子木)が打ち鳴らされ、一同は合掌し「展(てん)鉢(はつ)の偈(げ)」を唱えます。

「仏生迦毘羅(ぶっしょうかびら) 成道摩揭陀(じょうどうまかだ) 説法波羅奈(せっぽうはらな) 入滅拘絺羅(にゅうめつくちら)」
「如来応量器(にょらいおうりょうき) 我今得敷展(がこんとくふてん) 願共一切衆(がんぐいっさいしゅう) 等三輪空寂(とうさんりんくうじゃく)」

前四句は「聞槌想念(もんついそうねん)偈」とも言われるように、お釈迦様の御一代を想念し、後四句はお釈迦様が用いられた「応量器」を、今、私も展(の)べ広げることの出来る有り難いご縁を頂戴し、願わくは一切の衆生と共に、三輪(さんりん)(施者である施主と、受者である我々修行僧と、施物である食事)が偏りなく清浄でありますように、との誓願です。

唱え終えると、作法に則って「応量器展鉢」をします。現在私たちが使用している応量器は木製の漆塗りの物で(お釈迦様の時代は鉄鉢(てっぱつ))、五枚の器からなります。

一番外側の大きな器のことを「頭(ず)鉢(はつ)」と言い、お釈迦様の御頭の様に大切に扱います。頭鉢の中には鐼子(くんす)という器が四枚重なっており、これらの重なった器を中から取り出し、食事を受けられるよう並べることを展鉢と言います。

まず袱紗の結びを解き、食事に後で洗った応量器を拭く鉢拭(はっしき)(布巾)を畳み、膝掛けを組んだ脚の上に掛けます。次いで袱紗を広げ左右手前を折り込み、その袱紗の上に応量器を並べる為の鉢単(はったん)(紙製の漆塗り)という敷物を敷き、その上に応量器を並べて行きます。

現在長谷寺では器を三つ横一列に並べており、左が頭鉢、真ん中と右に鐼子を、音が立たないよう細心の注意を払いながら両手で丁寧に並べます。次いで匙筯袋(しじょたい)から筯、匙を取り出し器の手前に置き、最後に刷(せつ)という食べ終わった後に器を拭う道具を鐼子の間に置きます。

以上で展鉢は終わりです。展鉢が終わると、再びお唱えをし、食事の給仕が始まります。

つづく

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