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『行鉢(ぎょうはつ)』 その五

住持が食べ終わるのに合わせて一同も食事を終えます。すると、それを見計らって「香(こう)湯(とう)(お茶)」の給仕の浄人が内堂へと入って来ます。僧衆は頭饙の上にある筯を取り、口元を手で覆って筯先を舐め、器の手前、鉢単の上に、筯先を食べる前とは反対の左に向けて置き浄人を迎えます。

香湯の給仕が回って来た者は、頭鉢を左手に、匙を右手に持ち浄人へと差し出し香湯を受け、適量頂いたところで右手で合図をします。受けた香湯を器の中に行き渡らせながら、匙を使い頭鉢にこびり付いたご飯粒の残りを取ります。食べ残しを取るように、順に小さな器へと香湯を移してゆき最後に飲み干します。

続いて、刷(せつ)(器を拭う道具)を取り頭鉢へ移し、刷と入れ替えに匙を取り、匙先を舐め筯の手前に伏せて置きます。ここからは刷でもって頭鉢より使用したすべての器を拭ってゆきます。器の中にわずかに残った食べ物を刷で拭い、刷先を吸うようにして綺麗に舐め取ります。この時点で、もう洗う必要がない程に綺麗になります。

器を拭い終えると「浄水(じょうすい)(白湯)」の給仕の浄人がやって来ます。ここからは先鉢(せんぱつ)といって浄水を頭鉢に受け、刷で中を洗ってゆきます。次に、頭饙に浄水を移し、頭饙の上に頭鉢の口が右を向くように器を縦にして左手で上から押さえ、左手で頭鉢を右廻りに回転させながら、右手に持った刷で器の内も外も洗います。

洗い終えたら右手で鉢拭(布巾)を取り、左手に持った頭鉢を包むようにして内も外も拭きます。拭き終えたら鉢揲(頭鉢を置く台座)の上に戻し、鉢拭は中へと入れます。

次に、匙、筯を頭饙の中で洗います。匙、筯の順で、匙先、筯先を頭饙の浄水に浸け刷で洗い、鉢拭で拭いて匙筯袋に収めます。

次いで、左手で頭饙と刷を併せて持ち上げ、右手で第二饙を頭饙があった真ん中へと移動させ、頭饙の浄水を第二饙に移し頭鉢と同様に刷で洗い鉢拭で水気を拭き取ります。拭き上げた頭饙は、両手の親指で内側から外側へ力を入れて持ち、音がしないよう静かに頭鉢に重ねます。

第二饙は置いたまま刷で内側を洗い、次いで、そのまま刷を垂直に立て左右の指先を交互に浄水に浸けては引き上げるようにして刷の柄を洗い、最後に浄水の中で刷先(布を縫い付けた部分)を洗い鉢拭で拭いて匙筯袋に収めます。

つまり、まず頭鉢を洗い、その後、頭饙の中で匙、筯を洗い、頭饙、第二饙、最後に刷を洗います。頭鉢の中では饙子や匙、筯を洗ってはなりません。

洗鉢が終わると僧衆は同音に『折(せっ)水(すい)の偈(げ)』を合掌にて唱えます。

「我此洗鉢水(がーしーせんぱーすいー) 如天甘露味(にょてんかんろみ) 施与鬼神衆(せよきじんしゅう) 悉令得飽満(しーりょうとくぼうまん) 唵摩休羅細娑婆訶(おんまくらさいー、そーわーかー)」(我が鉢を洗った水は、天の甘露の味の如し、鬼神衆に施し与えて、悉く飽満なることを得せしめん)

折水(せっすい)とは洗鉢に用いた浄水を、半分は自分で頂き、残り半分を鬼神衆に与えることをいいます。

偈文を唱え始めると、「折水桶」を持った浄人が内堂へ入って来ます。僧衆は右手で第二饙を持ち、水が撥ねないよう左手をかざして桶の中へと浄水を半分ほど返します。桶に返された浄水は生飯と同様に生きとし生けるものへと施されるのです。残りの半分の浄水は飲み干してしまいます。

このように応量器で食事を頂くことで、洗い物に多くの水を必要としません。そもそも油っぽい食事が出されないということもありますが、各々が僅か100~150㏄程の水ですべての食器を洗ってしまいます。そして、その洗鉢水(食器を洗い終えたあとの水)は、全部自分で頂いてしまうのではなく、自分以外の飢えに苦しむものに施されるのです。

自分さえ良ければという思いから離れ、生きとし生けるものに思いを馳せる。その思いが具体的な行為となって現れているのが生飯であり折水なのです。 つづく

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